骨の色というのはこういうものか。
周囲に広がるのは荒野に白っぽい岩々や巨石が積み上がった、ただただ荒涼とした乾いて重い世界。
頭上に広がる空は、底の見えない闇と、濃い藍灰色がまだらに入り混じった雲が疾るいびつな天幕で。
人や生き物という気配どころか草木さえ見えず、およそ生気というものはどこにもなく、
不意打ちのように吹き付ける礫混じりの突風が肌を打ち、
陰鬱な大気は乾き切っているのに何故だか重々しい。
そんな荒野のそこここには、まっとうとは思えぬ存在がうずくまっており、
生気のない身でありながら、疾風のように襲い来ては鎌のような爪を振り、
刃のような尾をぶん回し、触手で巻き取って虚無の口へ引きずり込む格好で、
迷い込んでしまった非力な人々を狩る、途轍もない悪夢の秘境。
ひずみが生んだとも、人の業から生じたとも言われる“虚無海”が、
誰の仕業か現世と接触を成し、本来ならば負のみが満ちる冥界との拮抗が崩れかけていて、
今しもそちらへの扉が開かれようとしているという。
人同士、国同士の戦争などの比ではない、一方的な浸食と虐殺が始まらんとしている危機、
すんでで気が付いた一派これ有りて。
何者が構えた意図なのか、まさかに自然な終末か。
どちらにせよ手をこまねいてただただ飲まれるのを待つのは業腹と、
魔徒や咒獣の跳梁を阻み、人への脅威を片端から屠って来たが、
そのような勢力があると対手にも感づかれており、
鬱陶しいことよと主力のいくたりかが見せしめも兼ねてか惨殺された。
ただ、そんな手出しは痕跡としての残滓も残し、
次界の狭間をどう行き来しているのか、導師の慧眼にて辿ることに成功し、
帰ることは望めないやもしれぬ決戦の途についた有志らが
辿り着いたのがこの荒野。
異界へと通じる道中だっただけに、道行はただただ過酷ではあったが、
咒獣への封滅対処に優れている者、魔徒の繰り出す呪符への対応が叶う者などと
皆して精悍で雄々しき剛の者らであり。
それでも封印の鎖が今にも崩れ落ちそうな忌まわしき扉は、
生身の存在には圧が強すぎ、守護の符も片端からほどけては消えてゆくばかり。
「くっ。」
「ここまで辿り着けたのに。」
それぞれが恩師を父を兄を友を、戦いの中にて殺され亡くした無念を覇気に変え、
当人らも幾つもの死線を越え、身も心もひどく傷つきながらも辿り着いた正念場。
頭の芯が焼き切れそうな焦燥や激情をどれほどに焚べても敵わぬことはあるものか。
ここまで辿り着いたことが人としての限界の淵であったのか。
どこからともなく湧いて出るおぞましき咒獣を叩き伏せ、
魔人や魔徒らを覇気の刃で滅しながらも、冥扉が開かぬよう咒力で圧をかけ続ける彼らだったが、
精鋭とはいえ5人にも満たない頭数、もはやその霊力にも限りが見えている。
こここそが最終関門でもあろう冥界扉を、今一度強固に封印するべく用意した咒幣が効果を成さぬのは、
力が足りぬかそれとも、此処をこそ足場とする相手陣営による負力が強靭な後押しをしているせいなのか。
「……よし。」
ふと。
うちの一人が深々と息をつく。
そして、自身の胸板を開いた手のひらで叩くと、目を閉じ何やら念じ始めた。
片手は咒獣への盾にとかざしたままだったが、
彼が込め始めた念の気色が変わったことへ、仲間が気付いてハッとする。
「…それはっ。」
「何のつもりだっ。」
冥界扉の封印にと集められた有志らは、それぞれ様々な門下や血族の人間たちであり、
霊体を封じる家系の者や、あやかしを滅する者、
武道家だがその覇気の熱や神器の一閃で忌まわしきものを祓える者など多岐に渡っており。
自身の身へと何かしらの咒を植え付けた彼は、
肩を並べる仲間らへにんまり笑って見せると、右手の指を2本、眉間近くでクロスさせて印を結ぶ。
「要は封印すりゃあいんだよな。」
「…待てっ。」
何を思いついたのか、すぐさま察しがついたらしい仲間の青年が制止しようと手を伸ばすが、
それも織り込み済みか何かしらの障壁が弾いてしまい、
それを反動にしたかのように、彼の身が宙へ高々と浮かび上がった。
「だめだっ、戻って来いっ。」
「そんな術は誰も望んではいないっ!」
びゅうびゅうと吹きつける突風もまた、彼が張った結界か障壁か。
封印の家系からやって来た彼は、だが日頃は物理系の攻勢で皆を支えて来た前衛担当。
拳を振るう一閃で大型の魔物を押し潰し、
小物の咒獣の群れを一網打尽とするよな封印の術式が得手ではあったが、
最大級の奥義とやらはそういえば出番もないまま、披露はされてはなかったそれで。
ただ、
『一世一代、ただ一度だけ使える術式があるんだ。』
道中でそんな話をした彼は、だが、どんな術なのかまでは語ってはいない。
生涯に一度しか使えない封印の儀というだけあって、
術力が枯渇するものか、最悪の場合はもしやして…といやな予感しか浮かばない。
その身自体が危険物だということか、宙へと浮かんだそのまま仲間らから離れてゆく彼であり、
覚悟を決めての術式を展開するものか、
中空にその身を固定すると、両手を組み合わせてはほどき、様々な印を結び始めており。
もしかせずとも、その身をこそ礎とする仕儀に違いない。
封印の符の形代として我が身と命を投じる、強力だが危険な代物。
「やめろっ!」
「戻れっ!」
切なる怒号を上げて、そのようなものは求めちゃあいないと
制止の声を上げる仲間を、上空から柔らかな笑みで見下ろす彼だったが、
その身が結界と共に光を帯び始めるに至り、
いよいよ咒術が発動に至る気配がしたその時だ。
「ダメだ…戻って来てっ、中也さんっ!!」
そんな悲鳴が上がり、谷を埋めんとする勢いの声と共に苦しげな嗚咽が響き渡る。
最年少の同志が上げた必死の声だが、それさえ聞こえぬという振りか、
いやいやほんのり仄かに笑んで見せた青年は、双眸を伏せると深い呼吸を一つついた………
「はいっ、オッケイですっ。」
男性のよく通る声がシーンの終焉を告げ、
場へと叩きつける強風を放ち続けていた大型の送風機が押し黙る。
周囲でそれぞれの役割に徹していたスタッフ一同がほうと深々息をついたが、
「あ…えと…。」
映像チェックお願いしますとか、
送風、こんな感じで良かったですか、うんうん、なかなかこなれて来たねぇとか、
結構な頭数がそれぞれの持ち場で動き出した喧騒の中、
最後の痛々しい悲鳴を上げた人物が、ハッとし、そのまま見るからに焦りつつあわわと慌てて見せる。
擦り切れた衣装も擦り傷を模したメイクも、自前のそれだろう大量の涙に濡れており、
自分が失態を披露したことに大きにうろたえて、その顔を真っ赤に染めると、
「す、すみませんでしたぁっっ!」
がばりと、揃えた膝へおでこがぶつかりそうな勢いで頭を下げ、
周囲の人々皆へと届く謝罪を述べてから、
わたわた慌てふためいたままその場から駆け出すのも…実は初めてなことではなくて。
「あらら。」
「龍、これ。」
どこへ向かうやら、まだ焦ったままなのだろう彼の動向へ、真っ先に追従しかけた別の演者に向けて、
同じシーンを撮っていた背の高い先輩様がフェイスタオルを手渡し、
宙吊られていた演者の赤毛の兄様は、ボックスティッシュをまんま放って寄越すのもいつものこと。
助かりますという会釈を見せてから、逃げるように駆けてった最年少の俳優仲間を追ってゆく彼であり。
「何というか、可愛いもんだよね。」
頬に砂埃を刷り塗ったお顔で、くつくつ笑った一番背の高い男優氏が微笑ましいと告げれば、
ワイヤーで吊られていた装備を外した相方も、くくッと笑って年弱な方のお仲間二人が駈けてった方を見やる。
からかうような気色はなくて、ほのぼのとした気配の強い笑い方であり、
「よほどに君自身の身が案じられたんだろうね。」
迫真の演技に心打たれたか、それだけとも思えないとの言い回しを届けという切望込めて叫んだ少年と、
微妙に畑違いながら実は付き合いの長い同僚の間柄へというよな言いようへ、
「……。(怒)」
さすがに揶揄へは黙っていられないか、ちらっと睨まれてしまった長身の彼こそは、
モデル出身でありながら、今やあちこちの脚本家や監督からのオファーで引っ張りだこな名優、
太宰治という青年であり。
トレンディなシティ派ドラマへも、スリリングなサイコキラーを追う叙述型刑事ものへも
当たらなかった役はないと言わしめるほどに実力発揮しまくりの青年だが、
そんな彼へと睨みを放ったものの、駆け去った後輩が気になるか、
先程までそれはリアルな荒野を映し出していた背景用の巨大なスクリーンの端、
スタジオの大きなドアのある方を見やる、
こちらも、日頃は海外を足場にしつつも、
押しも押されぬ人気とオファーを抱えておいでの活劇男優、中原中也であり。
何なら共演者のスタンドインを任されるほどに、
どんな危険や奇抜なアクションでも期待以上の表現力と安定の体捌きでこなす様は、
AI作品が増えつつあっても、それをまやかしだとして憚らぬ頑迷な監督が少なくはないハリウッドで
引きも切らない贔屓たちからのオファーに揉まれておいで。
到底 地味とは言えない実力派が二人も、
何でまた…少年向けのドラマへ?と小首を傾げられた出演だったが、
そうまでこそりとした作品だったのも最初の1,2週だけ。
サブスク限定などという視聴者確約でもない地上波放送だった上、
週末でもない曜日の深夜枠なのに、あっという間に爆発的なヒットをし、
見逃し配信がパンクしそうな勢いでの贔屓を生みまくった話題作。
そして、そうまでの出来となったのは
彼らのネームバリューや裏付けのある名演技のせいだけでもないような。
「自然天然な反応だもんな。あれには勝てんわ。」
本来ならNGもの、
しかもここまでのクライマックスを大きに掻き乱す、罰金ものの言い間違いのはずだったが、
それでいちいちストップかけるのは勿体ないですよと言わんばかり、
他の演者の面々が吹き出しも呆れもせずに演技を進めてしまうものだから、
もはや毎度おなじみな代物になりつつある、NGではない“とちり”であり。
演者の皆様のみならず、監督やスタッフの皆様にまで、もはや常態となりつつある、この撮影での不思議ちゃん。
「台詞だけなら後撮りで声だけ重ねていいのだし。」
「勿体ない気もしますけどね。ああまでの情愛こもった雄たけびだったのに。」
そんな方向でほのぼの片づけるから、演出や音響さんたちの上層部も甘やかしまくりなのやもしれず、
「いっそ、原作者さんに掛け合って、中原君の役名を“中将”から中也に変えてもらおうか。」
「それ言ったら、太宰さんも芥川くんも変えないとならなくなりますよ。」
何なら敵の将軍格キャラへも
別の現場でお世話になっているものか、やっぱり本名呼びすること多かりしだしと、
どれほど虚構と現実を交えたがる坊であることかに沸いている、こちら撮影現場でした。笑
◇◇
AIとかSFXとかCGとか
色々と画像処理も豊かになってきた映像の世界ではあれど、
デジタルな処理、判る人には判ってしまうものなのだそうで。
たとえばワイヤーアクションも、
下手な人がやると、ワイヤーはデジタル処理で消されてあっても
動作の癖や不自然さで “ああ吊るされてるんだ”と判るもの。
『マッチの炎はどう細工してもその熱量でしかないらしいというし。』
CGや何やを使って大きくしようが重ねようが、
燃えようの形や何やで大災害や火災の様相にはならないという。
そのCGも、AIの導入や技術革新にて昔に比すれば格段の出来を披露できるようになり、
何ならスタジオでの撮影のみで荒野で大暴れする冒険活劇だって無理なく撮影できるご時勢になったというに、
『不自然な活劇は結局子供だましな熱しか生みませんから。』
週刊連載の少年マンガ『逢魔の扉』という人気作品を若手俳優を起用して実写ドラマ化したところ、
珍しくも大きに受けた。
原作を忠実に丁寧に再現したことと、演者たちにも恵まれたと言え。
実物には居なかろうと思われた設定にどこまでも添うた美男子たちや、
監督の要請を受けて立ち、運動能力に富んだ彼らのやってのける迫力満点な活劇の魅力が熱狂を招いての大成功。
イマドキの子らは慣れがあってのことAIでも不足はないと言われている中、
出来るだけ実際のアクションで描写した熱量や、
時にはやや圧されて劣勢となる展開にヘタレても、
それでも元気に振舞うさまをこそ敏感に拾った視聴者たちに、
ひねりのないままストレートに受けているようで。
長編劇場版を新規に撮るという話もひそかに潜航中だとか。
「…敦。」
最年少で、しかもそもそも俳優歴もまだ1年未満というに、奇跡の大抜擢を受けた主人公。
公園や街なかをアクロバティックに駆け回るパルクールで鳴らした身軽さを活かして、
体力勝負の鬼ごっこ番組などに出演したところ、
童顔無邪気なところから人気を博したものの、ご当人はスーツアクター志望。
戦隊ものとかの端役を勉強中だったところを見出されての抜擢で。
本人も読者ではあった人気作品、
主人公とはいえ、実態は舞台背景のいかに非常事態であることかや
事態収拾に集った人々の超人っぷりを解説するよな役回りらしいと説明されて。
あまり気負わず伸び伸びとねという指導の下、主要人物たちの弟分という立ち位置を演じていたのが、
うっかりと演者を役名じゃあなく本名で呼んでしまった、中島敦くん18歳で。
同じ劇団に籍を置いてた先輩格、身体づくりにと通う格闘ジムでも先輩で、
日頃からも可愛がられている人だったせいもあり。
そんなお人が命かけて咒を結ぼうという迫真の演技を見せたものだから、
ストーリー展開の悲壮さにも飲まれたか、
真剣本気でそんな無謀はやめてと叫んでしまったようであり。
周囲の大人たちからのほのぼの視線にも気づけないほど取り乱し、
スタジオから脱兎のごとくに逃げ出してしまった小虎くん。
「…こんなところにいたか。」
まだまだ経験が浅いが故か、ついつい熱が入っての役にのめり込む。
こんな風に我を忘れたのはこれまでにも結構あって。
だが、真摯な様子がむしろ下手にとりつくろわれた“演技”より上質と、周囲がそんな解釈へ傾いたのもあっという間で。
『…それって素の方が演技よりましってことでしょうか。』
そんな評価は複雑ですとお顔を真っ赤にした本人なのも判るが、
こうまでお見事な“熱演”を披露されては…周囲もまあまあまあとなだめるしかなく。笑
ハッと我に返って、あああやっちゃったぁと
多くの皆様へご迷惑かけたことや自身の未熟さへ真っ赤になってしまい、
スタジオや現場から逃げ出す彼を追ってってなだめるのは、
こちらは太宰氏の後輩にあたる新進気鋭の俳優、芥川龍之介くん。
赤ちゃんモデルを経て、児童劇団からコツコツと実績を積んできたというから、
経歴年数だけで言えば一番のキャリア持ちだが、
本格的な演技をと主には舞台で表現力を磨いてきた身。
カメラ前でという演技や振る舞いには時に勝手が違って困惑することも多いものの、
手のかかる弟分を気に掛けるにつれ、あっという間に落ち着きを身につけ、
新人に主要人物をあてるなんて、なんて冒険なと言われた若き術師役も、
周囲からの懸念をあッというまに跳ね飛ばした注目株で。
SNSのトレンドに入らない週がないくらいの人気ぶり。
ちょっと冷めた表情や寡黙なところがクールで素敵とのことだが、
実際はやや不器用なだけで、太宰氏いわく面倒臭がりでもあっての人づきあいが下手くそなだけ。
ただ、このシリーズでは、新人すぎる後輩さんへ、
面倒な奴だと見放すのではなく、世話が焼けると言いつつも実は喜々として世話を焼いてるよとのこと。
今も、先輩方から渡されたタオルやボックスティッシュのみならず、
蒸しタオルや涙を吸ったティッシュを収納するポリ袋まで持ってきている徹底ぶりで。
お兄ちゃんキャラだと誰が思おうかだよなと、見かけによらない献身ぶり?を揶揄する先輩方だが。
自分たちだって女性ファンたちを魅了する耽美だったり美麗だったりの外づらを置いといて、
外に出るなら何か羽織るんだよ、スマホは持ってるかい?迷子になるなよとか、
ほら差し入れの甘いもんだぞ、喉は乾いてないか?などなどと立派に世話焼きな兄キャラなのを棚に上げているところが、
『いやもう、4人兄弟の睦まじさを毎日観られて眼福ですvv』
『薄い自費出版のご本とか買わずとも、萌えを毎日補給できてます♪』
などなどと、ややけしからない発言をメイクさんやらADさんたちに吐かせておいでの
なかなか困った人たちで。
「ほら、鼻かんで顔を拭け。」
「ふえええ〜〜ん、龍く〜ん。」
今日は衣裳部屋の隅っこで、長羽織の暖簾の間に埋れるようになってぐずぐず泣いてた末っ子くん。
抱えていたお膝から、泣きの涙に眉も下がりまくりのお顔を上げる弟へ、
今日の撮影はこれで上がりだそうだから、メイクもとって良いそうだと。
クレンジング一式まで持って来ているところが、実際も妹さんがいて長男坊である用意の良さで。
毎度毎度、使ってない用具室とかセットの裏とか、
どんな選択かと思うよな場所へ逃げ込む弟分を最短で見つけ出せるレーダー機能も大したものよと、
兄様二人から重宝されつつ…たまに嫉妬されてもいるのはここだけの話だが。(笑)
……というよな大ふざけなお話、思いついてしまったほどの影響を投下された
困った状態のもーりんさんでございますvv
〜 Fine 〜 26.02.06.
*なんかとち狂ったように設定だけ思いついたというか、
こういうのやろうと思ったらどういう設定が要るのかなぁなんて考え始めたら
止まらんくなりました。笑
別に芝居とかどうとか特別なことを構えなくとも
文スト自体、異能力がビシバシ出て来て百鬼夜行な世界じゃあないかとも思えるんですけどもね。笑
芸能パロは、イマドキを全然知らない身には荷が重いので、
こんな感じ、かなぁ?という、おずおずとした出来となりました。
続くってことはないと思うんですが、どこへ投降したものか。
短編の中へ埋めていいのかなぁ?

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